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家族信託と遺留分|信託しても遺留分は消えない

公開日 2026年9月11日 ・ 更新日 2026年9月11日 ・ 9分で読めます

「財産を信託して名義を長男に移せば、次男の遺留分は関係なくなる」——家族信託をめぐる誤解の中で、最も危ないものの一つです。信託しても遺留分は消えません。委託者が亡くなれば、信託で利益を受ける人に対して遺留分侵害額請求ができ、遺留分を潜脱する目的の信託を無効とした判決もあります。

この記事では、信託と遺留分がどう関係するのか、請求される相手と金額の考え方、そして遺留分に配慮した設計の方法を整理します。遺留分の基本は「遺留分とは」をどうぞ。

この記事の要点

①名義が受託者に移っても受益権は委託者が持ったままなので、委託者が亡くなれば受益権が遺留分の計算に入る ②遺留分を侵害された相続人は、信託で利益を受ける人(新しい受益者・帰属権利者)に金銭を請求できる。相手は受託者ではなく受益者 ③遺留分を回避する目的だけの信託(本人の生活に不要な財産まで信託し、特定の子に利益を集中させる設計)は公序良俗違反で一部無効とされた判決がある ④対策は、遺留分相当額を信託の外に残す、遺留分を持つ子も受益者に加える、生命保険で原資を用意する、家庭裁判所の許可を得た生前放棄の組み合わせ

信託しても遺留分が消えない理由——受益権が対象になる

家族信託では、財産の名義(所有権)は受託者に移りますが、財産から利益を受ける権利(受益権)は委託者本人が持ち続けるのが基本形です。名義が変わっても実質的な財産の主は本人のまま——だから信託しても贈与税がかからない仕組みでした(「家族信託とは」)。

この性質が遺留分でも同じように働きます。委託者が亡くなると次の受益者や帰属権利者に受益権や財産が移りますが、これは遺言で財産を渡すのと実質的に同じ「無償の財産の移転」です。したがってその価額は遺留分の計算に含まれ、侵害していれば請求の対象になります。名義を先に移しても、遺留分の網の外には出られません。

誰が誰に請求するのか——相手は受託者ではなく受益者

遺留分侵害額請求は、信託で利益を受けた人に対して行います。信託財産の名義人である受託者ではなく、委託者の死亡で受益権を取得した人や、信託終了で財産を受け取った帰属権利者が相手です。受託者が同時に受益者になる設計なら、その長男に請求が向かいます。

請求できるのは金銭で、信託財産の引き渡しや信託の取り消しではありません。受益権の評価は、信託財産の価額をもとに受益の内容(元本か収益か、期間)を踏まえて算定します。受益者連続型で「妻の次は長男」と定めた場合、最初の受益者である妻が取得した受益権だけでなく、後の受益者の分をどう評価するかは実務上の論点です(「受益者連続型信託とは」)。請求の期限は、侵害を知ってから1年(「遺留分侵害額請求のやり方」)。

露骨な設計は無効になる——遺留分潜脱の判例

2018年の東京地裁判決は避けて通れません。父が自宅や賃貸不動産など主な財産を信託し、受益権の大半を特定の子に集中させた事案で、裁判所は「遺留分制度を潜脱する意図で、本人の生活に必要のない財産まで信託した部分」を公序良俗に反して無効と判断しました。

この判決が示した線引きは、信託の目的が本人の財産管理や生活の保障にあるかどうか、です。認知症に備えて自宅と生活資金を信託し、管理を子に任せる——こうした信託は正当な目的があり、結果として遺留分の計算に影響しても無効にはなりません。一方、収益も管理も本人に必要のない財産まで信託に入れ、その利益を一人の子に集中させる設計は、「遺留分を消すための道具」と見られる危険があります。「なぜこの財産を信託するのか」を説明できることが、信託を守る最初の条件です。

遺留分に配慮した設計——4つの対策

対策内容と注意点
①遺留分相当を信託の外に残す遺留分を持つ子の取り分に相当する預金などを信託せずに残し、遺言で渡す。最も確実で説明しやすい方法
②受益者・帰属権利者に加える遺留分を持つ子にも一定割合の受益権や、信託終了時の財産を配分する設計にする。争いの芽を最初から摘む
③生命保険で支払い原資を用意受益者となる子を受取人にした死亡保険金で、請求されたときに払える現金を確保する。保険金は原則遺留分の計算に入らない
④遺留分の生前放棄子本人が家庭裁判所の許可を得て放棄する。代償と本人の納得が必要で、一方的にはできない
家族信託で遺留分に配慮する4つの方法(2026年8月時点)。

どの対策も「請求されても払える・請求されない設計にする」ことが目的です。契約書に信託の目的(本人の生活保障・財産管理)を明記し、全相続人へ説明する機会を持つことも争いを減らします。財産の全体像を把握したうえで、信託に入れる財産と外に残す財産を分けてください。

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よくある質問(FAQ)

信託した財産は、遺留分の計算でいつの時点の価額で評価しますか?

相続開始時の価額で評価するのが原則です。信託した時点ではなく、亡くなった時点で受益権が持つ価値が計算の基礎になります。信託から死亡までに財産が値上がりしていれば、その分遺留分の額も増えます。評価は争いになりやすいため、不動産鑑定や税理士の評価書を用意しておくと交渉が進めやすくなります。

信託契約に「遺留分の請求はできない」と書けば有効ですか?

無効です。遺留分は法律で相続人に保障された権利で、委託者が契約や遺言で一方的に奪うことはできません。そのような条項は効力を持たず、むしろ「遺留分を潜脱する意図」の証拠と見られ、信託全体の有効性を疑わせる材料になりかねません。遺留分を持つ子に請求させたくないなら、本人の同意のもとで家庭裁判所の許可を得た生前放棄か、遺留分相当の財産を別に渡す設計で対応してください。

受託者である長男が、自分の財産から遺留分を払わなければならないのですか?

請求の相手は受託者としての長男ではなく、信託で利益を受けた受益者としての長男です。父の死後に受益権や信託財産を取得したなら、その範囲で金銭を支払う義務を負います。原資は信託財産の収益、信託終了で受け取った財産、または長男自身の財産。信託財産が不動産ばかりで現金がないと、自分の預金から払うか不動産を処分することになります。生命保険で原資を用意しておく理由はここにあります。

遺留分を持つ次男に信託の内容を知らせる必要はありますか?

法律上の義務はありませんが、知らせておくことを強くおすすめします。伏せたまま父が亡くなると、次男は「知らないうちに財産が移されていた」と受け止め、信託そのものの無効を争う方向に進みやすくなります。信託の目的(父の認知症対策と生活の保障)を家族全員に説明し、次男の取り分をどう確保するかを示しておくことで、争いの多くは防げます。説明の場を設け、その記録を残しておいてください。

まとめ

家族信託は遺留分の回避策にはなりません。名義が受託者に移っても受益権は本人のもので、亡くなれば受益権の価額が遺留分の計算に入り、請求の相手は受託者ではなく信託で利益を受けた受益者です。遺留分を消す目的だけの信託は一部無効とされた判決があり、本人の生活保障や財産管理という正当な目的が信託を守ります。対策は遺留分相当を信託の外に残す・遺留分を持つ子も受益者に加える・生命保険で原資を用意する・生前放棄の組み合わせ。信託に入れる財産と残す財産を分けることから始めてください。

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この記事の監修

ゾウゾクグループ

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