遺留分侵害額請求のやり方|内容証明の書き方・1年の時効・調停までの流れ
「全財産を長男に相続させる」という遺言があっても、配偶者や子には遺留分──最低限の取り分──があり、侵害された分を「お金で払え」と請求できます。これが遺留分侵害額請求です。
この記事は請求の実行手順に特化したガイドです。そもそも遺留分があるか・いくらかという制度と計算は「遺留分とは?誰にどれだけあるのか・計算例」で先に確認してください。ここでは、証拠集めから内容証明・調停・訴訟までを、1年の時効との競争として解説します。
はじめに:2019年から「お金の請求」に変わった
2019年7月の民法改正で、旧「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」に変わりました。実務上の意味は大きく、取り戻せるのは金銭のみになりました。旧制度のように不動産の持分を取り戻して共有状態を作るのではなく、「侵害額◯◯円を支払え」というお金の債権として請求します。不動産を渡したくない側・共有を避けたい側の双方にとって、決着がシンプルになった改正です(2019年6月末以前に開始した相続には旧制度が適用されます)。
時効は二段構え|「知った時から1年」が本丸
実務の急所は「①の1年」は内容証明1通で守れることです。1年以内に裁判を起こす必要はなく、請求の意思を相手に到達させれば権利は保全されます。逆に言えば、「話し合いで解決したかったから」と穏便に待っているだけで1年が過ぎると、権利ごと消えます。迷ったら、まず内容証明──これがこの手続きの鉄則です。
請求の全体フロー
| 段階 | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| STEP1 | 証拠収集・侵害額の概算 | 1〜3か月 |
| STEP2 | 内容証明で意思表示(1年以内・最優先) | 即日〜 |
| STEP3-1 | 当事者間・弁護士間の交渉 | 数か月 |
| STEP3-2 | 家庭裁判所の調停(遺留分侵害額の請求調停) | 半年〜1年 |
| STEP3-3 | 地方裁判所(または簡裁)への訴訟 | 1年前後〜 |
多くの事案は交渉〜調停で決着します。順番どおりに進める必要はなく、STEP2の内容証明だけ先に打っておき、証拠集めと交渉を並行するのが実務の型です。
STEP1:証拠を集め、侵害額を概算する
請求額の根拠となる資料を集めます。相続人であれば、相手の協力がなくても自力で取れるものが大半です。
① 遺言書・贈与の内容──遺言書の写し(公正証書は謄本請求、自筆は検認調書)。生前贈与の証拠(通帳の出金履歴・登記の移転記録)。
② 財産資料──不動産の評価資料(評価額の出し方)、預金の残高証明・取引履歴(取り方)、証券・保険。全体の洗い出しは5つの照会制度が使えます。
③ 債務──遺留分の計算では債務を差し引くため、借金も調べます(信用情報3社)。
集めた数字を財産目録に整理し、基礎財産(遺産+一定の生前贈与−債務)×遺留分割合−自分が受け取った分で侵害額を概算します(計算式の詳細と具体例は遺留分の解説記事へ)。概算で構いません──正確な金額の確定は交渉・調停の中で行えばよく、時効対応が先です。
STEP2:内容証明郵便で請求の意思表示をする(書き方)
内容証明郵便は「いつ・誰が・誰に・どんな内容を送ったか」を郵便局が証明する郵便で、1年以内に意思表示した証拠を作るために使います。配達証明を必ず付けてください。
① 被相続人の氏名・死亡日(「亡◯◯◯◯(令和◯年◯月◯日死亡)の相続に関し」)
② 自分が相続人であり遺留分権利者であること
③ 相手が遺言・贈与により財産を取得し、自分の遺留分が侵害されていること(遺言の日付等で特定)
④ 「遺留分侵害額請求権を行使する」という明確な意思表示
⑤ 侵害額の支払いを求めること(金額は「算定のうえ通知する」でも可。確定額の記載は必須ではありません)
⑥ 回答期限・連絡先・日付・差出人の署名
ポイントは④で、金額が固まっていなくても権利行使の意思さえ明示すれば1年の期限は守れます。文面に不安がある場合や、相手が受け取りを拒否しそうな場合(その場合の到達の扱いなど)は、この段階から弁護士に依頼するのが確実です。なお請求の相手方は、遺贈・贈与で財産を受け取った人(受遺者・受贈者)です。
STEP3:交渉 → 調停 → 訴訟
交渉──内容証明の後、金額の根拠資料を示し合って支払額・支払時期を協議します。合意できたら必ず合意書(清算条項入り)を作成してください。分割払いの合意も可能です。
調停──まとまらなければ、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます(訴訟の前に調停を経るのが原則=調停前置)。調停委員を介した話し合いで、評価額の対立などを整理していきます。
訴訟──調停不成立なら、訴額に応じて地方裁判所(140万円超)等へ訴訟を提起します。ここまで来ると不動産鑑定や生前贈与の立証が争点になり、弁護士なしでの追行は現実的ではありません。着手金・報酬の相場は専門家費用の記事を参考に、回収見込額とのバランスで判断してください。
請求された側の対応
逆に、遺言で多く受け取ったあなたが請求を受けた場合の要点です。
① 無視しない──請求は正当な権利行使です。放置すると調停・訴訟に進み、遅延損害金も膨らみます。
② 金額の根拠を検証する──不動産の評価・生前贈与の範囲・債務の控除など、計算には争える論点が多くあります。言い値で払う必要はありません。
③ すぐ払えないときは「期限の許与」──受け取った財産が不動産中心で現金がない場合、裁判所に支払期限の猶予(期限の許与)を求める制度があります。不動産の売却や借入れと組み合わせて資金計画を立てましょう。
④ 現物で払う合意も可能──双方が合意すれば、金銭に代えて不動産等で支払うこともできます(税務上は譲渡所得の課税が生じ得るため、実行前に税理士へ)。
よくある質問
「遺留分減殺請求」と書いて送ってしまいました。無効ですか?
名称が旧法のままでも、遺留分の権利を行使する意思が読み取れれば有効と扱われるのが通常です。不安なら、正しい名称で改めて内容証明を送り直しておけば万全です。
遺言書に「遺留分を請求しないこと」と書かれています。従うべきですか?
遺言にそのような記載があっても、遺留分請求を禁止する法的効力はありません。付言事項として気持ちを述べたものにすぎず、請求は可能です(遺言の効力の範囲)。なお生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可が必要な別の手続きです。
兄が遺産の内容を教えてくれず、侵害されているかも分かりません。1年はいつから?
1年の起算点は「相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時」です。とはいえ起算点の争いはリスクが高いため、疑いを持った時点で財産調査(照会制度)を始め、1年以内の内容証明を基準に動くのが安全です。
調停や訴訟をせず、内容証明だけで終わらせてもいいですか?
相手が任意に支払えばそれで解決です。ただし内容証明後の金銭債権にも時効(5年)があるため、支払いがないまま放置は禁物です。交渉が動かないなら調停へ進んでください。
請求額の土台になる、財産の一覧づくりから
遺産・生前贈与・債務を財産目録に整理すれば、侵害額の概算も、弁護士への相談も一気に速くなります。無料・登録不要です。
あわせて読みたい
この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。