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受託者が「使い込み」を疑われないために|利益相反と記録の残し方
家族信託で受託者を引き受けた人には、避けられない立場上のリスクがあります。親の財産を一人で管理しているという、それだけで疑われやすいという構造です。悪意がなくても、記録がなければ潔白を示せません。
そして疑いが生まれるのは、たいてい相続が起きた後。数年前の支出について、他の兄弟から「これは何のお金か」と問われる——そのとき手元に何が残っているかで結果が決まります。この記事では、信託法が原則として禁じる利益相反行為と、疑いを未然に防ぐ記録の作り方を整理します。
①信託法は受託者と信託財産の間の取引を原則禁止(利益相反行為)。例外は契約書の定めか受益者の承認 ②うっかり踏みやすいのは、財産の混同・無償の貸付・自分への売却・報酬の無断取得 ③疑いは記録のない期間に生まれる。その都度の記録と年1回の報告が、受託者自身を守る唯一の盾 ④疑われたら資料で応じる。出し渋りは疑いを確信に変える
なぜ受託者は疑われるのか
理由は3つあります。①権限が一人に集中している——信託は受託者が単独で財産を動かせる仕組みで、それが利点でもあります。②他の家族から見えない——日常の入出金は当事者しか把握できません。③相続で利害が対立する——受託者自身も相続人であることが多く、管理していた財産が自分の取り分に関わります。
つまり疑いは受託者の人柄とは無関係に、構造から生まれます。だから対策も人柄ではなく、仕組み——記録と開示——で行います。
原則として禁じられる取引
信託法は、受託者と信託財産の間で利害が対立する取引を利益相反行為として原則的に禁じています。代表的なのは次の類型です。
| 行為 | 原則 | 例外的に認められる場合 |
|---|---|---|
| 信託財産を受託者が取得する(自分に売る) | 禁止 | 契約書に定めがある/受益者へ開示して承認を得た |
| 受託者の財産を信託財産にする(自分から買わせる) | 禁止 | 同上 |
| 信託財産を受託者の借入の担保にする | 禁止 | 同上 |
| 受託者やその家族へ信託財産から貸付ける | 原則不可 | 信託目的に沿い、承認がある場合に限る |
| 信託事務にかかった費用の精算 | 可能 | 金額の妥当性と領収書が前提 |
| 受託者の報酬を受け取る | 契約書に定めがある場合のみ | 定めがなければ受け取れない |
うっかり踏みやすい4パターン
- 財産の混同——信託口口座からいったん自分の口座へ移して支払う、逆に自分の口座から立て替えて後でまとめて精算する。悪意がなくても、資金の流れが追えなくなります(信託口口座とは)
- 実家の格安取得——「どうせ自分が継ぐのだから」と信託不動産を安く自分名義にする。典型的な利益相反であり、後に他の相続人から争われる筆頭です
- 報酬の無断取得——手間がかかるからと、契約に定めのないまま報酬名目で引き出す。定めがなければ受け取れません
- 親の生活費と称した曖昧な出金——実際に親のために使っていても、使途のメモも領収書もない出金は説明できません(「使い込み」と言われない方法)
自分を守る記録と、疑われたときの対応
やることは多くありません。その都度の記録と年1回の報告、この2つだけです。
- 支出は日付・目的・金額・領収書をセットで——大きな支出には理由も一行添える
- 立て替えはその都度精算——まとめて処理しない
- 年1回、受益者へ報告し、他の家族にも共有——受益者が認知症でも報告義務は残ります(1年の実務カレンダー)
- 迷う取引は事前に承認を取る——事後の説明より、事前の書面が圧倒的に強い
疑いを構造的に減らす方法もあります。信託監督人や受益者代理人を置く(第三者の目が入る)、報酬を契約で定めておく(後の名目上の引き出しを防ぐ)、受託者を兄弟の連名にしない代わりに報告先を明確にする(受託者は兄弟でどう決める?)。これから契約する方は、この3点を設計に入れてください。
実際に疑われたら——感情で応じず、資料で応じます。残高 → その期間の収支一覧 → 大きな支出の理由と領収書、の順で開示するのが最短です。出し渋る対応は、疑いを確信に変えます。それでも解けなければ、信託監督人の選任や専門家の関与を検討してください(受託者の辞任・解任)。
重要な判断は、本人の意思確認書で残す——契約時や大きな取引の際に本人の意思を書面化しておけば、後の「無効だ」「使い込みだ」という主張への備えになります。無料・登録不要でつくれます。
本人の意思確認書をつくるよくある質問(FAQ)
受託者が信託財産の不動産を自分で買い取ることはできますか?
原則としてできません。信託法は、受託者が信託財産を自分のものにする取引などを利益相反行為として原則的に禁じています。ただし、契約書にあらかじめ許容する定めがある場合や、受益者に重要な事実を開示して承認を得た場合など、例外的に認められる場面があります。実務では、価格の妥当性を示す資料をそろえ、書面で承認を得たうえで進めるのが最低条件です。安いと感じる価格での取得はとくに疑われやすいため、必ず専門家を関与させてください。
受託者である自分が立て替えた費用を、信託財産から精算してよいですか?
信託事務に必要な費用であれば精算できるのが原則です。問題になるのは金額の妥当性と記録の有無で、領収書がなく金額だけが動いていると、後から使途を説明できません。実務では、立て替えたその都度、日付・目的・金額・領収書をひとまとめにして精算し、帳簿に残します。まとめて精算する運用は避けてください。なお、受託者としての報酬を受け取るには契約書に定めが必要で、定めがないまま報酬名目で引き出すことはできません。
他の兄弟から「勝手に使っているのでは」と言われました。どうすればいいですか?
感情で応じず、資料で応じてください。受託者には帳簿を作り受益者へ報告する義務があり、その資料をそのまま開示するのが最も早い解決です。説明の順番は、信託財産の残高 → その期間の収支一覧 → 大きな支出の理由と領収書の3段階。それでも解けない場合は、信託監督人を選任して第三者の目を入れる方法があります。逆に、資料を出し渋る対応は疑いを確信に変えます。
親(受益者)の生活費を、受託者の判断で増額してもよいですか?
契約書の定めの範囲内であれば可能です。多くの契約では、受益者の生活・療養・介護に必要な費用を給付する旨が定められており、施設入居などの事情で必要額が変われば、それに応じた支出は信託の目的に沿った行為といえます。ただし金額が大きく変わるときほど記録が重要です。変更した日付、理由、根拠資料を残し、可能であれば他の家族にも事前に共有してください。判断の妥当性ではなく、説明できるかどうかが後の争点になります。
まとめ
受託者が疑われるのは人柄ではなく構造の問題です。信託法は受託者と信託財産の間の取引を原則禁じており、財産の混同・実家の格安取得・報酬の無断取得・使途不明の出金が踏みやすい落とし穴。対策は難しくありません——その都度の記録と、年1回の報告。この2つが、悪意のない受託者を守る唯一の盾です。そして疑われたときは資料で応じること。契約の入口で信託監督人と報酬条項を設計しておけば、そもそも疑いが生まれにくい形にできます。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
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