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相続放棄しても家の管理責任は残る?「現に占有」ルールと清算人
相続放棄をしたのに、市役所から「実家の屋根が崩れそう」と連絡が来る——放棄は「借金からも家からも解放される手続き」と思われがちですが、放棄した後も家の管理責任が残る人がいます。
義務が残る人と残らない人の線引き、保存義務の範囲、引き渡し先、相手がいないときの相続財産清算人の申立てと費用を整理します。放棄の手続きそのものは「相続放棄の手続きを自分でやる方法」をどうぞ。
①2023年改正で、放棄後の管理義務は「放棄の時点で現に占有していた相続人」に限定。同居や鍵を持って出入りしていた人は対象、遠方で関わっていなかった人は対象外 ②義務は「自己の財産と同一の注意」で保存すること。倒壊や火災を防ぐ最低限の管理を怠り損害が出れば賠償責任も ③義務は次順位の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで続く。全員が放棄すれば自分で清算人を申し立てるしかない ④清算人の申立てには予納金(20万〜100万円程度)がかかる。放棄前に家財を処分すると単純承認になるため、片づけは保存の範囲に
放棄しても義務が残る人・残らない人——「現に占有」の線引き
改正前は、遠方で一度も関わっていない相続人にまで義務があるのかが曖昧でした。2023年4月施行の改正で、義務を負うのは「放棄の時点でその財産を現に占有していた人」に限ると明記されました。
| 放棄の時点の状況 | 保存義務 | 理由 |
|---|---|---|
| 実家に同居していた/放棄後も住んでいる | 残る | 現に占有している典型 |
| 別居だが鍵を持ち、出入りして管理していた | 残る可能性が高い | 事実上の支配があれば占有 |
| 遠方に住み、鍵もなく一度も管理していない | 残らない | 占有していない |
| 親が施設入所中で、自分が自宅を管理していた | 残る可能性が高い | 本人不在でも管理者は占有者 |
「占有」は、鍵を持ち、出入りし、事実上その家を支配している状態を指します。郵便物を受け取っていた、庭木の手入れをしていた——こうした関わりがあれば占有と評価される可能性があります。
保存義務の範囲——やってよいこと・やってはいけないこと
義務は「自己の財産におけるのと同一の注意」で保存すること。専門的な管理までは求められませんが、放置して屋根が崩れ通行人がけがをした、火災が広がった場合は、損害賠償を問われ得ます(「相続した空き家を放置するとどうなる?」)。
- やってよい(保存行為)——雨漏りの応急修理、倒れそうな塀や庭木の撤去、施錠・見回り、火災保険の継続
- やってはいけない(処分行為)——家財の売却や廃棄、取り壊し、賃貸に出す、名義変更。放棄前なら単純承認、放棄後なら放棄が無効と争われる恐れ
- グレー——遺品の処分。価値のないゴミの片づけは保存の範囲だが、価値のある物を捨てると処分になる。写真を撮り、価値のある物は残す
固定資産税は放棄した人には課税されませんが、故人名義のまま納税通知が届いたら、放棄の受理証明書を市区町村に示してください。
義務を手放すには——引き渡す相手と、いないときの清算人
保存義務は次順位の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで続きます。義務を終わらせるには「渡す相手」が必要です。
- 次順位の相続人に引き渡す——子が全員放棄すれば親、親もいなければ兄弟姉妹が相続人になる。管理を引き継げば自分の義務は終わる。鍵と書類の引き渡しの記録を残す
- 次順位も放棄したら、相続財産清算人を申し立てる——家庭裁判所に清算人(改正前の相続財産管理人)の選任を申し立て、引き渡すことで義務が終わる(「相続人がいないとどうなる?」)
問題は誰も申し立てなければ「最後に占有していた人」の義務が続くこと。家に価値がなければ債権者も動きません。放棄した相続人自身が申し立てる——それが実務上の出口です。
清算人の申立てと費用・放棄前に気をつけること
申立ては故人の最後の住所地の家庭裁判所へ。費用は印紙と切手で数千円のほか、予納金——清算人(弁護士・司法書士)の報酬と管理費用に充てるお金で、20万〜100万円程度を申立人が先に納めます。価値のない家では戻らないと考えてください。
この費用を避けたい人が多く、「放棄したまま誰も申し立てず、空き家が残る」事態が起きています。予納金を払って清算人に引き渡すか、義務を負ったまま最低限の管理を続けるか——家の状態と近隣への危険性で判断してください。自治体の空き家除却の補助や特定空家の対応も確認を。
放棄を決める前にできることは二つ。①財産の全体像を把握する——預金や保険があれば、相続して家を売る・国庫帰属を申請する選択があり得る。②家財に手を付けない——放棄前の処分は単純承認になる。放棄は「家の出口を誰かに委ねる手段」でもあります。出口まで見通してから申述してください。
放棄するかどうかは、財産と債務の全体を見てから——家・預金・保険・借金を一枚に書き出す財産目録の下書きを、画面のステップに沿って無料でつくれます。放棄後の家の出口も、この一覧から見えてきます。
財産目録をつくるよくある質問(FAQ)
遠方に住んでいて実家には何年も行っていません。放棄後の管理責任はありますか?
放棄の時点で実家を「現に占有」していなければ保存義務はありません。鍵を持たず、出入りもせず、管理に関わっていなければ義務を負わないのが原則です。ただし放棄後に鍵を預かるなど関わりを始めると、占有を始めたと見られる可能性があります。市区町村や債権者からの連絡には「放棄しており占有していない」と受理証明書を添えて回答してください。
放棄した家が倒壊しそうです。修理費を出さないといけませんか?
自分の費用で大がかりな修繕をする義務まではないのが一般的な理解です。ただし倒壊の危険を知りながら何もせず損害が出れば責任を問われる可能性があります。応急措置、立入禁止の表示、市区町村への相談といった最低限の対応を行い、記録を残してください。危険が大きいなら、清算人を申し立てて引き渡すのが確実です。自治体の空き家対策の窓口で除却の補助も確認を。
兄弟全員で放棄しました。清算人は誰が申し立てるのですか?
「利害関係人」なら誰でも申し立てられ、放棄した相続人も当たります。ただし義務ではないため、誰も申し立てなければ、最後に占有していた人の保存義務が続きます。実務では占有していた兄弟が申し立てるか、兄弟で予納金を分担する形が多いです。誰が動くか、費用をどう分担するかを、放棄の前に決めておいてください。
放棄した後に家の中を片づけてもよいですか?
価値のないゴミの片づけは保存の範囲ですが、価値のある家財の処分や売却は相続財産の処分にあたり、放棄が無効と争われる恐れがあります。片づけるなら価値のある物は残して写真を撮り、明らかなゴミだけを処分し、迷う物は手を付けない。清算人が選任されれば清算人が処分するので、それまで現状を保つのが安全です。
まとめ
相続放棄をしても、放棄の時点で家を「現に占有」していた人には保存義務が残ります(2023年改正)。遠方で関わっていなかった人には残りません。義務は「自分の財産と同じ注意」で保存すること——応急修理や施錠はよいが、家財の処分や取り壊しは処分行為になり放棄が危うくなる。義務を終わらせるには次順位の相続人か相続財産清算人に引き渡すしかなく、全員が放棄すれば自分で清算人を申し立て、予納金20万〜100万円程度を負担するのが出口です。放棄は家の出口まで見通してから決めてください。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。