相続の使途不明金|使い込みを追及する手順と疑われた側の対処
預金の残高を見て「こんなに少ないはずがない」——取引履歴を取ると、亡くなる前の数年間に何百万円もの出金がある。同居の兄弟は「親に頼まれた」「介護に使った」としか言わない。これが使途不明金の典型で、相続の争いで最も多く、最もこじれる類型です。
追及する側の手順と、疑われた側の対処を整理します。生前に「使い込み」と言われない管理の方法は「親の預金から介護費用を払うには?」、死亡後の引き出しは「亡くなった親の口座からお金を引き出すとどうなる?」をどうぞ。
①相続人は一人でも、故人の口座の取引履歴(10年分が一般的)を金融機関から取得できる。全員の同意は不要 ②亡くなる前の出金は「不当利得返還請求」で、本来は遺産分割ではなく民事訴訟の対象。亡くなった後の出金は、他の相続人の同意で遺産に含めて分割できる ③追及側の証拠は、出金の時期と本人の判断能力、出金方法、使途の説明の有無。疑われた側の証拠は、介護費用や生活費の領収書、本人の依頼の記録 ④協議が止まったら調停で説明を求め、決着しなければ訴訟。金額と証拠の見込みで弁護士費用に見合うかを判断する
まず取引履歴——相続人一人で10年分を取れる
まず事実の確認から。相続人であれば、他の相続人の同意がなくても、故人の預金口座の取引履歴を金融機関に請求できます(最高裁が2009年に認めた権利)。必要なのは戸籍・本人確認書類・手数料で、保存期間(10年が一般的)まで遡れます。
見るべきは「いつ・いくら・どの方法で」の3点。亡くなる直前に窓口で限度額いっぱいの出金が続く、寝たきりの時期にカードで毎日引き出される、特定の口座への振込がある——こうした動きが出発点です。残高証明書(死亡日時点)も取り、履歴と照合してください(「相続財産の調べ方」)。
追及の筋道——生前の出金と死後の出金で扱いが違う
| 出金の時期 | 法律上の扱い | 解決の場 |
|---|---|---|
| 亡くなる前の出金 | 本人の同意なく引き出した分は、故人が持つ不当利得返還請求権・損害賠償請求権を相続人が相続分に応じて引き継ぐ | 原則として遺産分割の対象外。相手が争えば民事訴訟。全員が合意すれば分割の中で調整できる |
| 亡くなった後の出金 | 2019年の民法改正で、引き出した相続人以外の同意があれば、引き出された預金を遺産に含めたものとして分割できる | 遺産分割協議・調停で扱える |
争いが長引く原因は、生前の出金が「遺産分割の問題ではない」点にあります。調停で主張しても、相手が認めなければ調停委員は扱えず、別に訴訟を起こすしかありません。請求の時効は、不当利得なら出金から10年、不法行為なら知ってから3年。古い出金ほど証拠も薄れるため、疑いがあるなら早く動く必要があります。
何が証拠になるか——追及する側・疑われた側
追及する側が固めるのは、「本人の意思による出金ではなかった」と推認させる材料です。
- 本人の判断能力——出金の時期に認知症の診断や要介護認定があったか
- 出金の方法と本人の状態——窓口なら本人が銀行に行けたか。カードなら誰が管理していたか
- 使途の説明の有無——文書で説明を求め、回答や拒否の事実を残す
- 相手の資産の変化——出金の時期に住宅を買った、借金を返したなど
疑われた側は「本人のために・本人の意思で」使ったことを示します。介護施設の請求書、医療費・生活費の領収書、修繕やリフォームの見積書、本人からの依頼を示すメモや録音、通帳の記載——これらが出金額に見合って揃っていれば、使い込みの主張は崩れます。記録なしに「介護に使った」と言うだけでは、金額が大きいほど不利です。証拠は「出金と支出の対応関係」という同じ場所にあり、記録を持っているほうが強い——これが争いの構造です。
協議・調停・訴訟——どこまで進めるかの判断
- 協議で説明を求める——取引履歴を示し、大口の出金の使途と裏付けを求める。「この日のこの金額」と具体的に
- 専門家を介して文書で求める——回答がなければ弁護士名で内容証明を送る。ここで相手が記録を出すことも多い
- 遺産分割調停を申し立てる——調停で説明を求め、相手が一部を認めれば分割で調整する。認めなければ切り離して進める(「遺産分割調停とは」)
- 民事訴訟——不当利得返還請求として地方裁判所へ。立証責任は追及側にあり、弁護士費用は数十万〜百万円超になることも
訴訟まで進めるかは争う金額・証拠の見込み・弁護士費用のバランスで決めます。100万円を訴訟で争うのは費用倒れになりがちで、実務では調停の中で「相手が一部を認め、分割で調整する」着地が多くを占めます。合意できれば協議書に明記して蒸し返しを防いでください。
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遺産分割協議書をつくるよくある質問(FAQ)
兄が「親に頼まれて引き出した」と言います。それで終わりですか?
終わりではありません。引き出したお金を本人のために使ったのか、自分のものにしたのかは別の問題です。本人が使ったなら支出の記録があるはず。兄が受け取ったなら贈与の合意があったかが問われ、贈与なら特別受益として遺産分割に反映されます。「そのお金はどこへ行ったか」の説明を求めてください。本人の判断能力が失われていた時期の依頼は、有効な依頼と認められにくくなります。
取引履歴を取ろうとしたら、銀行に「相続人全員の同意が必要」と言われました。
相続人一人からの請求で取引履歴を開示することは最高裁の判決で認められた権利で、「全員の同意」を求めるのは誤った対応です。判例の存在を伝え、本店や相続専門の窓口に相談してください。それでも応じなければ弁護士会照会を使う方法があります。なお相手の相続人名義の口座の履歴は、相続人であっても請求できません。
私が親の介護をして預金を管理していました。疑われないために何を出せばよいですか?
出金と支出を対応させる記録です。施設や病院の請求書・領収書、生活費のレシート、修繕の契約書、親の代わりに払った税金や保険料の記録を、出金の日付と金額に並べて一覧にしてください。すべての領収書がなくても、施設の月額などから「毎月これだけかかっていた」ことが示せれば整合を説明できます。親の意思で引き出した分は、メモやサイン、周囲の証言が助けになります。「介護の労に報いる」と言われていても、書面がなければ贈与の主張は通りにくい点は承知しておいてください。
使い込んだ兄弟は、その分だけ相続分を減らされますか?
自動的には減りません。生前の使い込みは故人の返還請求権を相続人が引き継ぐ形で、遺産分割で当然に差し引かれるわけではないからです。ただし全員が「使い込み分を遺産に戻したものとして分割する」ことに合意すれば、協議で調整できます。合意できなければ返還請求は訴訟で行い、遺産分割は切り離して進めます。兄弟が受け取った分が贈与なら、特別受益として反映する主張が可能です。
まとめ
使途不明金の争いは取引履歴の取得から——相続人一人で10年分を取れ、「いつ・いくら・どの方法で」が出発点です。生前の出金は不当利得返還請求で本来は訴訟の対象、死後の出金は同意があれば遺産に含めて分割できる。追及側は本人の判断能力と出金方法、疑われた側は介護費用や生活費の領収書——証拠は「出金と支出の対応」という同じ場所にあります。協議→文書→調停→訴訟の順で、金額・証拠・費用のバランスで進め、合意は協議書に残してください。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。